2012年5月19日、緑のますます深くなった糺の森・下鴨神社において葵祭の行事の一環である煎茶献茶祭が行われました。神官方の先導に続き、可楽家元嗣をはじめ献茶御奉仕の一行は本殿御門前へ進行。雅楽奏上、祝詞奏上の後、舞殿に上がり、各位置に着座。可楽家元嗣奉仕の献茶手前が始まります。炭をつぐことから始まる炭手前に続き、三器盆、春日盆が運ばれ、手前座に着かれ一礼。鮮やかな袱紗捌きの間、白砂の上はしんと静まり、鳥の声が響きます。よく沸いた湯瓶から白磁の献茶用茶瓶に湯が注がれ、進退の後、渾身のしずくが茶碗にしたたり、やがて神前へ運ばれました。本殿門前に戻って、可楽家元嗣と参加者を代表して古典の日推進委員会ゼネラルプロデューサー・山本壮太様の手で玉串が奉奠され、今年も無事献茶式は終了しました。水屋奉仕、細田徳楽師範・瀬本章楽師範、供茶奉仕、瀬口素楽師範・菅井翠楽師範。式後は二席に分かれて茶筵がもたれました。
供御所では、葵透棚をつかった清明手前。その昔清明節のころ、中国では茶を献じる習慣があったとか。その故事にちなみ、命名されたお手前と聞きます。梅雨に近づく頃、今年もお茶の恵みを緑に包まれた中で感じつつ、いただくのもまた一入と思いました。
屏風前の仮床には橋本関雪の「松下高士図」、陸羽がお茶を煮ている姿です。尚古斎造の花籠には珍しい紫色のアイリスが開いたばかり。錫に七宝を施した水注が目をひいていたようでした。
境内対角にある直会殿では、立礼手前。刳り貫きの立派な略盆を使っての玉露手前でした。小さな楽焼の涼炉が可愛らしく、先代染筆の茶壷も並べられていました。直会殿のまわりに植えられたムラサキシキブが、大きく細枝を伸ばし、この建物も緑の空間。伊勢神宮から拝領の棟木の天井からも風が通り、さわやかな茶味もより美味しく味わっていただけた様子。お菓子は奇しくも伊勢にも近い伊賀上野の桔梗屋製。ゴマやはったい粉などいろいろな粉を使った半生菓子も、それぞれに楽しんでいただけたようでした。
小餞席も一日にぎわって、無事お茶会はおひらきとなりました。