2011年1月7日、明け方からの雪で美しく化粧した三清庵において、初煮会がひらかれました。
昨年末の大雪も融けきらぬ上に、刻々と新雪の積っていく中を、つぎつぎと正装された皆さまが後楽堂の門をくぐられました。
午前10時すぎ、二階の広間のそれぞれの位置に着座。御家元、可楽家元嗣を床の間正面にお迎えし、まず、家元総師範前田尚楽先生より開会の御言葉。「皆様明けましておめでとうございます。昨年は御家元には古希をお迎えになり、節目ともなる大変有意義な一年でした。そのお祝いの会に、可楽家元嗣がお考えになった、全員が奉仕と客を兼ねるという新しい御茶会の形を見せていただきました。今年もまた、いろいろな行事があるようですが、それぞれが楽しんで、奉仕者として客として活動していけたらと思います。皆さまのご協力をお願いいたします」
続いて御家元のご挨拶「今朝は思いもかけず、純白の世界となりました。まさに新年のスタートにふさわしい心改まる景色です。最近は、可楽家元嗣がいろいろと先頭になって活動してくれており、ここにも新たな時代の幕開けを感じることができます。通信にも書きましたが、中国に三清山というところがあることを最近知りました。機会があればまた訪問してみたいと思いますが、流祖可進翁が知っていた上で庵号にしてかもしれません。これも可進翁の励ましと考え、今年も新しい力と、こういう世界の基礎となった古いものの研究という、両輪で邁進していきたいと思います」
また、可楽家元嗣からもご挨拶いただきました。「昨年はいろいろな機会をいただき、励んで参りました。今年もまた、自分では成せていないことも、気負わずに皆様とともにつとめていきたいと思います」
この後、御家元から免状を各自に頂戴します。家元師範の許状を初めに、昨年までのご活躍の成果をそれぞれ胸にされていました。式後はお茶席へ。今年は二階の稽古場に待合席が設けられ、すでにご到着の来賓の方々とともに大福茶をいただき、干し柿や結びするめをとり回されていました。
お席は25人が同席し、可楽家元嗣の本格手前による一煎をそれぞれに頂戴します。後見をなさる御家元とお正客とのお話に、それぞれ聞き入ったり、お手前に見入ったり、お席に和やかな空気が満ちていました。
今年のお軸は田能村竹田筆の山水画。脇床の炭飾りは「太平」。副物の水晶の珠が新春の光に益々輝いて。青竹の花筒の椿「大神楽」の紅がほころび始め、香炉の「開運」の香が席中に漂っていました。
甘露のエキスを頂いたあとは、新館の小饌席で菊乃井のお料理に舌鼓。家元夫人より注いでいただく美酒にほろ酔い加減となりつつ、本館の競茶席へ。今年も各地のお茶がそろい、美味しく味わいながらお手前を楽しんでおられたようでした。興が乗られた方は、上の揮毫席で俳句や短歌、絵にも挑戦。楽しい絵巻物ができていました。
8日は来賓方が大勢おいでになり7日同様に煎茶の世界を堪能。夕刻6時からは、ブライトンホテルへ場を移し、新年の宴席が始まりました。
まず、芳賀徹先生(京都造形芸術大学名誉学長)よりご挨拶をいただきます。「先程は少しではありますが身体全体に広がるような美味しいお茶を頂戴し、ありがとうございました。家元がよく話される上田秋成には『背振翁伝』という物語があります。修行僧とお茶の仙人の話ですが、今日の家元と私のようなお話です。今日は本当に殺伐とした世の中になってきましたが、皆さんの心にも身体にも良いお茶を、御社中皆さんでますます広めていっていただきたいと思います」
続いて杉本秀太郎先生(フランス文学者)のお話「小川流の中にも新しい変化の風が吹き出しているようですね。シューベルトのある曲を評論家の吉田秀和氏は、歳を経た今聴きなおしてみると、懐かしいような違った印象を感じる。時代の流れとともに、自分の感情、感覚も変化していく。変化よ急がず来てほしいと書いています。心に沁みる文章です。フランスの哲学者アランは[幸福は感染する。不幸もまた。よって人に自分の不幸を
語ってはならない]と。吉田氏も奥様のご不幸を、懐かしいと思えるころになって初めて語られたといいます。最近印象に残った文章でした」。
このあと、森谷尅久先生(武庫川女子大名誉教授)による乾杯へ。
また、今回は中国三弦奏者の費堅蓉(ヒーケンヨウ)さんによる珍しい中国三弦の演奏がありました。ニューヨークのカーネギーホールや国連本部でも演奏されたことのある費さんは、上海音楽大学のご卒業。中国での音楽賞をつぎつぎ獲得されている方です。日本の太棹三味線とも違う、その重く深い音色は、新年に相応しい新しい喜びを与えてくれるようでした。
素晴らしい演奏の後はしばし歓談の時。そして、恒例の利き酒。五種類の名前を隠した銘酒をそれぞれに味わい、用紙に番号を記入。さて結果は?お隣同士で成績を確認し、家元三男珂楽様より景品をいただかれていました。そしてくじ引きでは、箱の中のお名前カードを珂楽様に引いていただき、また嬉しい景品を手渡されて。
最後に社中を代表して、家元総師範大塚清楽先生よりお礼の気持ちを込められた閉会のご挨拶があり、無事幕となりました。