後楽堂直門 早野元楽
洛中の桜も盛りを迎えようかという2010年4月6日、三清庵にて「しっかりわかる、煎茶入門」の撮影がありました。
淡交社から出版されている『煎茶入門』の改訂版をとのお話に、可楽家元嗣のご提案から、現代風に立礼のお席も盛り込んでとのことで、お手前写真の更新や俳人の黛まどか様をお迎えしてのお茶事の撮影となりました。
ご存知の方も多いでしょうが、三清庵のある上賀茂は京都市内でも北の方に位置することもあり、心地よい緊張感を与えるきりりと澄んだ空気の朝となった当日、撮影準備が整えられた後楽堂に入りました。
まず、お手前の手順の撮影が行われました。眩しいほどのライトに照らされた手前座でデモンストレーターの長谷川佳楽師範が、略盆玉露のお手前をされました。ベテランの宮野カメラマンや後楽堂の先生方が、角度や美しい見せ方を試行錯誤されつつ、意見を交わされていました。照明にクローズアップされた泡瓶から、玉の露がキラリと落ちる瞬間をねらってカメラを構えられるカットでは、張り詰めた空気の中、私共も息をのんで見学させて頂きました。近年は撮った直後にパソコンのモニターで確認できることもあり、良い写真が撮れたあとは「おぉっ!!」と感嘆の声も上がり拍手喝采でした。
お昼からは、黛様がおいでになりお茶事の撮影が始まりました。
黛様は小川流の門人でもあり、御家元が以前参加された「日本再発見塾」の呼びかけ人としてもご活躍と認識しておりましたが、お目にかかるのは初めてで緊張せずには居られませんでした。江戸後期に流行ったといわれている紅碧地に桜の絞りが入った訪問着に蕪村の帯を合わせられて、さすがと思わせる着こなしにまず感動いたしました。
お茶事の撮影は、お待合から始まり、本席、立礼二席、小餞席、揮毫席と続きました。本席では珂楽様が本格手前を、後見は可楽家元嗣がお座りになり、間に取り次ぎとして座らせて頂く光栄と緊張で記憶が曖昧ですが、和やかに撮影が進む中、
「おいしい!ほんとうにおいしいです」と黛様が微笑まれたお姿が、お床に飾られた花菖蒲の前に映えて美しく、印象的でした。
立礼のお席も、和室での設えと中国の間での設え…拝見しているだけでワクワクするお席飾りも勉強になりました。素晴らしい伝統の要素を引き立てつつ、時代に合った新しい風を感じる…まさに現在の小川流らしい盛り沢山の内容の改訂版となるのではないでしょうか。
着々と撮影も進み、最後の揮毫席。黛様は短冊と筆を手に取り、一句お考えになるお姿も、知性のある都会の女性でありながら、とてもチャーミングな一面もお持ちと拝見しました。
御家元が学術調査・研究にお忙しくご活躍の昨今、可楽家元嗣は継承式以来、益々ご立派にお勤めになり門人の一人として大変頼もしく感じました。裏方に徹してられた奥様や、諸先生方にも裏方の仕事や撮影時のご指導を頂き、大変勉強になりました。
未熟ながら、光栄にも参加させて頂けましたことをこの場を借りて御礼申し上げます。